とっておきのお酒の話vol.17

4.日本酒(清酒)

4-7.ラベル(表、裏)の読み方

 ラベルには日本酒の出自や特徴を読み解くヒントが表示されており、顔であり履歴書です。デ ザインで人々の目を引き付けると同時に、酒の生い立ちに関する様々な情報を表示する役目を 担っています。ラベルに表示されている言葉の多くは専門用語が使われており、内容を読み解 くためには、そういった専門用語を理解しておくことが必要です。 

   <表ラベルは図のような表示が一般的です>

 

1:1995年酒造年度(*)と全国新酒鑑評会で金賞を受賞した日本酒の証です。栄えある 賞ですので明記されます。(*酒造年度:1995・10~1996.9)

2:いわゆる特定名称酒8区分の内、これは最上級の大吟醸です。 (特定名称酒については第15回をご参照下さい)

3 :  内容量が720ml(4合瓶)です。因みにワインは750mlが主流です。

4 : 製造メーカー名が福島県・会津地方にある末廣酒造株式会社です。

5 :  銘柄名が「剣」です。剣のごとく切れ味の良いお酒の意が込められています。 

<裏ラベルは上図のような表示が一般的です> 

1 : 杜氏(酒造りの責任者)の名前です。現在はコンピューター化が進んで、画一的な面も否めませんが、やはり経験に裏打ちされた繊細な感性が求められます。

2 : 日本酒度は比重を意味します。一般的に+が辛口、―が甘口の基準となります。こちらは+3.5ですから辛口です。糖分が少ないと比重は小さく+表示、多いと比重は大きくー表示となります。昔は、釣り用の浮きに似たものを浮かべて、浮きに刻まれた基準線より沈めば+、浮けばー、その目盛を数値としていました。ただ、人によって甘辛の捉え方が違いますので、日本酒度だけで一概に判断できません。燗か冷か、酸度やアミノ酸度でも影響されます。

3 : 酸度はコハク酸、リンゴ酸、乳酸等の量となります。ただ、単純に酸っぱいだけでなく、旨味を伴うような酸味が特徴となります。通常のお酒は数値が1.0~1.8です。この酒は1.3なので、ほとんど酸味を感じないと思います。山廃仕込みや生酛造りのお酒(後述)は、酸度が高く(2.0を超えるものもあり)さらにコクがあります。味の濃い料理にはよく合いますから、一度試してみてください。

4 : アミノ酸度はいわゆる旨味成分であり、味の濃淡の目安です。アミノ酸は20種類ほどが含まれています。その数値が低いと味が薄く、多いとコクのある旨味のある濃い酒となります。でも雑味と言われる荒っぽい要素にも繋がりますので、多ければ多いほど良いと言うものでもありません。吟醸酒などのスッキリした爽快なお酒はアミノ酸度は低く、吟醸酒で1.0位、純米酒で1.2位、本醸造酒で1.5位のものが多いのですが、この数値は0.6なのでかな

り低いですね~

5 : 味の分類では、甘辛度を3~6段階に表示するのが一般的です。この場合は5段階の表示です。

6 : 清酒のタイプ分類では、香りの高いタイプ(薫酒)、熟成タイプ(熟酒)、爽快で滑らかなタイプ(爽酒)、コクのあるタイプ(醇酒)に分類します。この酒は大吟醸なので薫酒に属します。(この分類については、第15回をご参照下さい)

7 : 精米歩合を表示しています。玄米を削って残った米の重量%です。数値が小さいほど沢山削っています。例えば、40%であれば玄米を60%削っています。大吟醸酒は50%以下、純米酒70%以下と決められています。因みに、皆さんが食べている白米は92%位ですので、8%が胚芽と皮(糠)の総重量です。

8 : 使用米は一般的な食用米ではなく大粒(*)の酒造好適米を使います。この酒は酒造好適米の王様と言われる山田錦が使われています。

(*)1000粒当たりの重量が食用米は22g前後、酒造好適米は26~28gもあります。

9 : お酒造りの主役、酵母の種類です。一般には日本酒造協会が頒布している純粋培養酵母が多いのですが、こちらは末廣酒造の酒蔵に住んでいる蔵付酵母を使用しています。使用する酵母の種類の違いにより、特徴ある香りと味のお酒が醸されます。

10 :日本の水は、ほとんど軟水~中硬水の域にあり、この酒は中硬水で造っています。日本酒の中の80%は水です。軟水ほど呑み口の柔らかなタイプとなり、硬水に近いほどボディーのしっかりしたタイプになります。

 

この他にも、次のような表示がされていますので、以下に簡単にご説明します。

 ❶生酒・生詰め・生貯蔵酒

 通常のお酒は、出荷までにタンクに入れる時(a)とビン詰め時 (b)に火入れ(低温加熱殺菌:一般的には60°C、30分処理)を2回(a&b)行います。 生酒は全く火入れを行わず、生詰めはaの時に1回、生貯蔵酒はbの時に1回のみ行ったお酒 です。

 

❷原酒

 通常のお酒は、割水(加水)してアルコール度を調整して出荷しますが、割水なしの お酒です。(原酒アルコール度は18~21、通常酒は14~16)

 

❸無濾過

 通常のお酒は、醪(もろみ)を搾って酒粕とお酒に分けます。搾ったお酒に残る澱 (おり)と呼ばれる微細な沈殿物を取り除くため、更にミクロフィルターや活性炭で濾過しま すが、この作業を行わないお酒です。

 

❹あらばしり、中汲み(中取り)、責め

   図のように、お酒は搾り工程で3つの部分に分かれます。醪を酒袋に入れて、槽(ふね⇒舟形の器)と言う搾り器の中に袋を積んで搾ります。袋を積んでいく段階(あまり圧がかからない)で、最初に流れ出てきたのが「あらばしり」で薄く濁っており、切れ味が良く華やかでフレッシュ感がある。

  次に槽一杯に袋を積み上げて搾りますが、流れ出してきた透明なお酒が「中汲み」です。この時もあまり圧力がかかっていません。香味バランスが優れ、お酒の良い部分になります。一般には日本酒鑑評会へこの部分が出品されます。

 この工程が終わると次に圧力をかけて搾ります。これを「責め」と言います。大吟醸などの高いお酒には責めの部分は使われていません。雑味は多くなりますが、洗練された濃い味わいで呑み応えがあります。

 

❺ 袋吊り、雫(しずく)取り、斗ビン取り(斗ビン囲い)

 通常のお酒は、前述の濾過工程を経て出荷されますが、搾り袋に入れ上から吊るし、地球の引力でポタポタと落ちる液体(雫酒)を集めたものです。この雫酒方式に使用される器が1斗ビン(18L)であれば斗ビン取り(斗ビン囲い)と言います。

 

❻にごり酒

 搾り袋に入れずに目の粗い布で濾しただけのものです。どぶろくではない。

 

❼冷おろし、秋上がり

 春先に出来たお酒を一度火入れ(a)してタンクに入れ、火入れしないで約半年間熟成して9~10月に出荷する生詰酒です。

 

❽生酛造り、山廃仕込み

 江戸時代の酒造りは全て生酛と呼ばれる手法が使われていました。

 自然界の乳酸菌を育成して乳酸を造らせ雑菌の繁殖を抑え、酵母が働きやすい環境を整えてお酒造りに専念させるやり方ですので、お酒造りに長い時間がかかります。(現在は約90%が乳酸を添加して造る速醸法)やや酸味があり芳醇な香味のお酒です。

 生酛造りでは、麹による米の糖化作用を高めるため、米をすりつぶす作業(山御しと呼ぶ)を

行っていました。精米器の発達などで、この作業が廃止出来るようになった。これが山廃仕込

みです。日本酒生産量の内、生酛造りは約1%、山廃仕込みは約4%です。

 

❾生一本

 単一メーカーで造られた純米酒のことです。「灘の地酒」ブランドを強調するために付けられたのが始まりです。 

4-8.お酒の飲用適温は?

 お酒の個性を活かすも殺すも温度次第と言えます。世界には様々なお酒がありますが、温めて 呑む習慣があるのは日本酒だけ、温度によってガラリと香味が変わるのが魅力の一つでもあり ます。温度が低いほど香りは感じにくくなりますが、爽快さは増し硬く引き締まり、逆に高く なるほど香りは感じやすくなり、まろやかになるが爽快さは失せます。冷でも燗でも美味しく 呑める日本酒、どんな変化を起こすのか是非試してみて下さい。

 ざっと整理すると、本醸造は冷酒と 燗酒で、純米吟醸酒は冷酒で、大吟醸は10~15°Cのピンポイントの冷酒域で、純米酒は冷 酒(雪冷えを除く)~燗酒の広い範囲の適温があります。何れの種別でも、55°Cのとびっき り燗は不向きとなります。くれぐれも徳利が熱くて持てないような燗酒にしないように気を付 けて欲しいものです。

 

 

引き続き第18回は、お酒の三大原料(酵母、米、水)の内、酵母についてお話をする予定にしています。酒造好適米、水については第19回(最終回)でお話する予定です。

 以上  Mr.k 


17回目ありがとうございました。

 

ワインのラベルは、よく見ますが清酒は名前だけで選んでいました。

 

治療院の側に日本酒専門の小料理屋さんがあるので、ラベルみながら今日は呑ませていただきます。